ヨーロッパピアノ 音色の方向性について

DSCN5243・音色-特にピアノの音色は非常に抽象的で優劣付け難いもの
ピアノ愛好家はピアノの響きに何を期待するでしょうか?甘い音、柔らかい音、キラキラした音、澄んだ音・・・恐らく人の数だけ好みがあるでしょう。音色と言う非常に抽象的なものに甲乙付けるのは難しい問題ですし、そもそも音色の格付けというものに意味があるのかどうか。。ここでは音色の優劣をいうのではなく、ピアノの音色の大まかな分類について考えてみたいと思います。ヨーロッパピアノの場合、値段が高いという基準や、アップライトかグランドかという基準が、必ずしもお客様の好みやニーズに合うとは限りません。同じメーカーのピアノでもモデルごとに個性があるというのがヨーロッパピアノの面白さであり、その個性を弾き手の個性と同一化していく感覚がとても楽しく感じられるのです。

DSCN5250・ヨーロッパピアノの音色の方向性を分類してみる(重厚でエネルギッシュ=スタインウェイ編)
さて、大まかな分類をするため、対極的な個性を持ったメーカーであるスタインウェイとベヒシュタインを比べてみたいと思います。
スタインウェイは物理学者のヘルムホルツとともに音響学を楽器に取り入れながら独自の響きを形成してきました。土地柄や産業革命という歴史的背景もあり、世の中は「より大きく、よりスピーディに、より大勢に」という風潮に染まりつつありました。移動手段は馬車から鉄道、車、飛行機へと進化し、大量輸送、大量消費の時代がやってきました。その中で音楽の届け方にも変化が生じ、それまでサロンや小さなコンサート会場での演奏がメインだったものが、大ホールでより大音量で、より大勢に音楽を届けるスタイルが主流となりました。そしてスタインウェイは時代の要求に応える楽器を作っていきます。非常に重厚で音圧感があり、ピアノという音場でうまれた音の塊がppでは収縮し、ffでは華やかに膨張していくような感覚を覚えます。この音作りは、戦後様々なメーカーのお手本となり、多くのメーカーが追随していくことになります。

DSCN5496・ヨーロッパピアノの音色の方向性を分類してみる(鮮明な透明感=ベヒシュタイン編)
ベヒシュタインの音色の方向性と言えばクリアで繊細な音色。これはベルリンフィル初代指揮者のビュローやリストといった音楽家との交流によってもたらされた音色の方向性ですが、実はフォルテピアノやチェンバロなどの古楽器にも相通じる方向性です。鍵盤楽器はどちらかと言えば元々音の分離感に優れ、声部の多層構造を持ったピアノ曲を表現するには比較的やりやすい楽器でした。ベヒシュタインはその響きを現代のモダンピアノという音場で実現している、とも言えます。この響きは重厚でエネルギッシュなスタインウェイとは対照的な響きで、鮮明な音の分離感は各声部の独立性を保ったまま、お互いの声部が対話するような感覚を覚えます。スタインウェイは全ての音が塊となって飛んでいくのに対し、ベヒシュタインは音毎のキャラクターが維持されたまま飛んでいくイメージです。

ヨーロッパには沢山のピアノメーカーがありますが、この分類を抑えながらピアノを選んでみると、ご自身の好みもはっきりしてくるかもしれません。

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