ピアノが語ってくれたもの-その22
フェルトの今日
Q.フェルトの質と言いますか。弾力や絡み具合、耐久力はフェルトメーカーにゆだねることとなるでしょうが、近年の化学汚染、環境破壊等で羊毛の質がピアノハンマーに以前ほど向かなくなってきている話しを聞きましたが。
A.羊毛からフェルトにする製造過程で洗浄や漂泊をやり過ぎることで、油脂成分のラノリンが少ないとの指摘もあります。
Q.ラノリンは人の皮脂と成分が近く保湿力もあるとかで、化粧品の原料になることが多いですね。
A.そうですね。ラノリンはフェルト製造過程での副産物でしょう。羊毛の洗浄は硫酸等の劇薬で行なうそうです。漂泊も強い薬剤を使います。必要以上にきれに白くしたいのは内容より見てくれ重視の弊害かも知れませんね。真っ白できれいなフェルトが必ずしも良いピアノ製作に向くとは限らないわけです。
Q.そういえば、酸性雨の影響で木材やフェルト、鹿皮等の品質低下で往年のピアノはニ度と作れないと、悲愴な意見も聞きましたが。
A. ある意味で、環境破壊に対して警鐘を鳴らす意味ではごもっともです。人もピアノの材料も自然の一部でしょうからね。しかし、ヨーロッパの音楽文化にものづくりを通して接してきた私には、悲愴感だけで終わらせないものを肌で感じます。次回は比喩を基にして2つの価値観を例に挙げてご説明していきましょう。