■輸入ピアノ アップライトはグランドの廉価版か?
・輸入ピアノ アップライトピアノとグランドピアノは目的が違う
アップライトピアノは高さがあります。ケースは勿論のこと、弦や響板、鉄骨も全て縦(垂直)に立てられています。グランドピアノはケース、弦、響板などが全て水平に張られています。それぞれにメリットとデメリットがあります。
一般的に日本ではアップライトピアノはグランドピアノの廉価版として制作されており、「初心者やアマチュアが弾くもの」「グランドが置けないスペースに置くもの」と認識されています。たしかに量産タイプの楽器にはアップライトとグランドで材料や製作時間、音色、タッチいずれも品質に開きがあります。時々結婚式場などの広いスペースにアップライトが演奏用に置いてありますが、実際に演奏してみるとそのスペースの広さも関係してかダイナミックレンジが極端に小さく感じ、音色の変化もごく僅かしか感じられないこともままあります。
しかし輸入ピアノの場合は少し事情が変わってきます。ヨーロッパのピアノ作りの考え方ではアップライトは決してグランドピアノの廉価版という位置づけではなく、芸術を奏でる楽器として機能を十分に果たしながらグランドとは別の「愉しみ方」を追求しています。
・輸入ピアノ グランドピアノの目的
グランドピアノは弦から響板で増幅された音が天井方向に飛びます。そして斜めに開いた大屋根に反射し、音は客席の方へ飛んで行きます。つまり音の指向性は演奏者の方ではなく客席の方を向いています。演奏会用のピアノの殆どがグランドピアノであるのはここに理由があります。また現在の多くのメーカーは放射状の支柱を採用していますが、これはグランドの音量増幅に一役買っています。低音弦側から放射状に取り付けられた支柱は、ピアノ全体にねじりの力を加えており、側板に大きなテンションを掛けています。木材は強い力で曲げられると密度が増して音の伝達率が高くなり、エネルギッシュでダイナミックな音となります。他にも響板の工夫や鉄骨を鳴らす発想など様々な工夫がありますが、概してグランドピアノは客席の遠くまで音を飛ばすことの出来る工夫がなされています。
・輸入ピアノ アップライトの目的
安心してください。一流と言われるヨーロッパのピアノメーカーはアップライトにもグランドピアノと同じように職人が魂を吹き込み、手作業で一台一台丁寧に製造します。職人は手作業の中で木材や金属の音を聴き、メーカーが持つ独自の音色のコンセプトに従って音を作っていきます。そのため形状やアクション機構の精密さに違いはあれど、ヨーロッパ製アップライトはグランドピアノと遜色のない音色を醸し出すことが出来るのです。
アップライトピアノは響板と演奏者が向かい合う形となります。そのため響板で増幅された音は演奏者側に返ってきます。アップライトはこのように音と演奏者が直接向き合い、音と対話しながら音楽を作ることが楽しめる楽器です。グランドが演奏者の心を音色という媒体を通して第3者とコミュニケートすることを楽しめる楽器だとしたら、アップライトは音を通じて自分や楽器との対話を楽しめるピアノと言えます。
音との対話を楽しむという事は、自分自身を楽しむという事でもあります。よく欧米人が会話の中で「enjoy yourself」というフレーズを使うのも、自分自身の享楽を愉しむことが人生の豊かさに繋がるという価値観からきているのかもしれませんね。
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