赤レンガのベヒシュタイン工場 その8
さて、いよいよ当時のベヒシュタイン工場の内部に潜入しよう。
おっと、まず鉄の扉だ。
シックなモスグリーン(ベヒシュタインのイメージカラー)に塗られたこの扉は開けるのも重かったっけ。
すべてが、ちょっと古めかしかったが、西ベルリンの特殊事情もあってか、戦前からのものを大事に使っていた。
ヨーロッパの建物は階段が広く吹き抜けがあり暗い。また、中庭なども特徴だ。
ベヒシュタイン社にはビールの自販機がなかった。
ビール好きのドイツ人がなのに?
その他のドイツのピアノ工場、たとえばザウター社等は、ビールの自動販売機くらいはある。なぜなかったか?
不思議に思ったので聞いてみた。
マイスターは多くを語らなかったが、こんな話をしてくれた。
以前、工場で働いていた見習いが今日は自分の誕生日だと言うことで、朝からビールを飲んでうかれていたらしい。お酒が廻りすぎた彼は階段の4階から転落したそうだ。私はその話にあまりにびっくりしてその後どうなったかまでは聞けなかった。
その事件が、工場内禁酒のトリガーになったらしい。
その後、と言っても10年以上あとだが、名著「パリ左岸のピアノ工房」に登場する調律師が、ベヒシュタイン工場で修行中、階段から転落した話を読んだ。
同一人物かどうかは確認のしようもないが、とりあえず、生きてて良かったなぁっとほっとしたっけ。