―ヨーロッパのピアノメーカーはピアノ製造に必要な部品、特にアクションアッセンブリーとハンマーの製作を外部業者に委託している。しかしベヒシュタインはザクセン州ザイフェナースドルフの工場にて、ハンマーヘッドの自社製造を開始した。この自社製ハンマーヘッドが“ベヒシュタインサウンド“にどのような変化をもたらすのか、新オーナーのステファン・フライムート氏、技術最高責任者レオナルド・デュルチッチ氏、工場長マティアス・ケーニッヒ氏に話を聞いた。
■ステファン・フライムート:ベヒシュタインが独自のハンマーヘッドの開発を始めて2年以上が経過した。数々の失敗を経て、ハンマーヘッドのパーツ組み立てが如何に難しいかを実感したよ。しかし我々の目標は、未来を見据えて永続的なピアノの供給を続けることにある。この精神を念頭に置き、R&Dチームを強化し、巨額の投資をしてきた。
我々経営陣は、サプライヤーから供給されるハンマーヘッドがベヒシュタインクオリティに達していないことを常々感じていたんだ。サプライヤーに我々の意図を理解してもらうのは難しく、状況は全く改善できなかった。
■レオナルド・デュルチッチ:ヨーロッパのハンマーヘッドメーカーの製品は非常にハイレベルですが、製造過程で重要なことが欠けていました。“テストを重ねる”ということです。だから、ハンマーの取付け、整音、品質チェックを素早く行っていくために、自社の技術者に任せることにしました。
■ステファン・フライムート:私に言わせれば、ハンマーヘッドメーカーの言い分を弁護する余地は全くないね。彼らには改善する意欲がまるでなかった。我々は数台のピアノに新しいハンマーをセットし、整音の専門家による品質チェックを試みた。しかし、この試行錯誤に割いた時間は少し長すぎたようだ。品質に問題があった場合、それが材料あるいは作業工程なのかを特定するのは難しいが、私が求めているものは優れた品質と安定的なサービス供給、それだけだ。
■マティアス・ケーニッヒ:現在楽器は良い管理状態が保たれています。いま私たちは原料から始まり全てのプロセスを、私たちの管理下のもと改善できる状況にあります。ハンマーヘッドでいえば、音の改善のためにフェルトの質量を調整したり、原料や設計を自由に変えることが出来ます。つまりそれは、製造過程の細部にわたり私たちがコントロール出来るという事です。今後ベヒシュタインはハンマーヘッドだけでなく他の部品の細部に至るまで、自在にコントロール出来るようになるでしょう。
―ベヒシュタインハンマーの特徴について、ケーニッヒ氏は次のように語っている。
■マティアス・ケーニッヒ:ハンマーウッドについて、ホフマンヴィジョン・トラディションにはヨーロッパシデ、ベヒシュタインプレミアムとホフマンプロフェッショナルにはマホガニー、ベヒシュタインマイスターピースにはウォルナットを使用しています。なぜこのような差別化を図るのか?それは見た目の美しさと伝統に基づいた理由があります。
―しかしマティアス・クリンジング(整音責任者)とトーマス・クンペ(ハンマーヘッド開発責任者)は、硬さと加工のし易さから、マホガニーが一番良いという。
■マティアス・クリンジング:ベヒシュタイン製ハンマーは整音の針刺しがとても簡単に出来ます。整音時に力を入れる必要がなく、効率的に高い精度の整音を施すことが出来ます。ベヒシュタインブランド全てに使用する木を加工しているザイフェナースドルフの工場で、CNC mill(コンピューター自動制御装置)で削る前に、一旦適当なサイズにカットします。次に成形されたハンマーウッドの棒を、ベヒシュタインR&Dチームが設計したハンマーフェルトをカットする機械のあるホールへ移します。CNC millによってカットされたアッパーフェルトとアンダーフェルトをハンマーウッドに圧着します。フェルト類や木材はドイツ製か近郊のヨーロッパ諸国から届きます。アッパーフェルト用の白いフェルトと、新しい深い青色のアンダーフェルトはシート状で届きます。両方のハンマーフェルトはまず適当な形に切られ、ハンマーウッドに接着するために三角柱に切断されます。このフェルトが世界中のどんな気候(多湿、乾燥)にも適用出来るように、接着前にアッパーハンマーフェルトの束を気候室に入れて調整します。フェルトは演奏に耐え、尚且つ硬化しすぎないように特殊な接着剤を使用し、熱処理によって圧着されます。重量の測定は接着前に行います。
■トーマス・クンペ:(接着前に測定をするのは)全てのハンマーヘッドに十分な重さがあることを確認しておきたいからです。フェルトには目に見えない微細な穴があり、それが重さに影響します。不具合の多くはこの部分に見られます。この工程を経ることで、接着後にハンマーがプレカットされる時、弾力がはっきりと感じられるハンマーフェルトとなるのです。
■マティアス・ケーニッヒ:次は更に手間のかかる作業が待っています。余分なフェルトを払い、手作業で研磨した後、1個1個のハンマーにカットします。他者のハンマーとは対照的に、ベヒシュタイン製のハンマーにはリベットがありません。糊付けに不具合があった場合も、リベットは役に立たないことが実験により明らかになりました。ハンマーに圧力がかかった場合に、リベットがハンマーを破裂させる可能性すらあるのです。そして私たちはリベットを必要とせず、質量にも影響を与えない接着剤を見つけました。
―滞在中、アンダーフェルトが赤いものもあった。
■マティアス・ケーニッヒ:私たちはまだ生産を始めたばかりです。私たちの製品だと一目で分かる青色のフェルトは、世界に向けて船出を始めたばかりなのです。
■ステファン・フライムート:ハンマーヘッドには、容易にそれがベヒシュタイン製だと分かるロゴをレザーで焼き入れている。まだ生産を始めて間もないが、我々の未来は明るく開けているよ。
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