ピアノが語ってくれたものシリーズ ピアノの響板特性とハーモニー調律 その16
ロングミュートにおける割り振りの盲点
つまり、現実のピアノでは、ロングミュートで3本弦の2本をミュートし、1本弦にしていかに素晴らしく割り振り(基礎音階)が出来たとしても実際の演奏の時は3本(ユニゾン)で鳴らすので『響板インハーモニシティー』が影響し
『打鍵の強弱によってハーモニーがずれるKeyが必ず存在する』
という事です。
以前私は、ある電子楽器の専門プロフェッサー(教授)に、迂闊な質問をしたことがありました。
「最近のデジタルピアノはピアノに比べてどのくらい良いのですか?」
すると、
「君ね! 音の事を聞いているのかね? ならばデジタルピアノとピアノとを比べる事は非常にナンセンスだ!」
「まず、音源が違う。電子音もしくはサンプリング音と実際の弦振動の差だ。」
「また、小さいスピーカーから出る音と、大きさが1.5m以上ある箱から出てくる音の比較などまったく無意味だ。」
「デジタルピアノの魅力は音量調整や持ち運びの利便性、価格や調律維持管理が必要ないなどがある中で、
我々プロはデジタルピアノとピアノの長所短所を熟知して利用している。比較や等級をつける事は一切しない。」
と叱られてしまいました。
ピアノは鍵盤のオン・オフで音が出るのではなく、鍵盤がアクションを動かしハンマーが弦を叩き、弦が共鳴し、駒を伝わって響板が振動し、その振動が鉄骨やケース(ボディ)を震わせ、それらの多様な振動が空気を震わせることで人の耳に届きます。弾き方により多種多様な音色や音量が出せるのです。
一方、デジタルピアノはデジタルサンプリングされた音のデータの再生になるため、データ化された音の範囲内での音量、音色、音の減衰の再生となります。
つまり、ピアノとデジタルピアノはまったく別物というわけです。
ピアノのハーモニーには表情があり、その基礎音階である割り振りのところこそ調律時の打弦が重要で、かつ、それぞれのピアノの特性を理解してユニゾン後の最終的なハーモニー感の微調整をしていかなければならない事になります。
そして、ユニゾン後のハーモニー的にも精度が上がったそれぞれのピアノの割り振りをもとに、低音部・高音部へと調律を進めていきましょう。
弦インハーモニシティーを考慮した弦設計(メンズレーション)が次元の違う美しいハーモニーを導き出してきます。