アンドラーシュ・シフ ベートーベン「ディアベッリの主題による変奏曲」をフォルテピアノとベヒシュタインで録音

ベヒシュタインその音色の美しさ

シフ■アンドラーシュ・シフ ベートーベン「ディアベッリの主題による変奏曲」をフォルテピアノとベヒシュタインで録音

少し前になりますがアンドラーシュ・シフによるベートーベン「ディアベッリの主題による変奏曲」がリリースされています。この録音はベートーベンハウスにある1820年頃のフォルテピアノと1921年製ベヒシュタインを使用して録音されています。
ベートーベン生存時のフォルテピアノと、モダンピアノとしてのベヒシュタインの類似点が非常によく分かる内容に仕上がっており、楽器のヒストリカルな面から見て大変価値ある録音です。

 まず録音のフォルテピアノは音域によって音色のキャラクターが違うことが判ります。非常に大雑把に分類すると、低音側はチェンバロのように弦を弾く音色、高音側はピアノのように弦を叩く音色となっています。ベヒシュタインはモダンピアノなだけに、どの音域も基本的には私たちが通常認識している“ピアノ”の音色です。ここで興味深いのはどちらの楽器も音の鮮明さ、音量変化による音色の変化、音が消えゆく時の響きの色合いが驚くほど似ているということです。
 メロディと伴奏の声部が入れ替わった時に感じる音楽の立体感は、各声部のニュアンスを明確に伝える鮮明な響きがベースにありますが、それ以上にppとffでの音色の違いによるものが大きいように感じます。ppでは鍵盤上を小さなボールがコロコロと転がるような丸くて可愛らしい音ですが、ffではギターを掻き鳴らすようなエッジの効いた鋭くて太い音になっています。フォルテピアノの演奏では特に低音側で、ベヒシュタインの演奏では特に高音側でその変化が顕著に聴こえます。様々な音色の組み合わせにより奥行きと躍動感を伴った音は、エキサイティングで人間らしさを感じさせる、粋な音楽に仕上がっています。シフのパフォーマンスがそのような響きを指向していることは大きな要素ですが、それぞれの楽器の特徴もパフォーマンスに大きく関係しているようです。
シフの卓越した表現力を味わうのも面白いですが、ベートーベン時代の、ベートーベンが頭に思い描いていたであろう鍵盤楽器の“響き”と、ベヒシュタインの響きの関連に耳を傾けて聴いてみるのも面白いのではないでしょうか。

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