ピアノが語ってくれたものシリーズ ピアノの響板特性とハーモニー調律 その10
響板製作とAIの進化
さて、バイロイトの古参ピアノメーカー Steingraeber&Sohne(シュタイングレーバー&ゼーネ)が響板制作過程で細かい砂状の粒子を響板上面にばら撒いて駒に振動を与え、振動数により粒子が移動する様子、描く形状変化を確認しながら、何度も響板の仕上げを職人がカンナ修正するのは有名な話ですね。
ピアノの心臓部、響板だからこそ、大切な素材の個体差を確認しながらの作業と言えます。それ故に昔ながらの丁寧な方法をあえて残しているのでしょう。
イタリアの新鋭メーカー Fazioli(ファツィオリ)の響板高音部は2層~3層にして、あえて木目の方向をクロスさせ音響特性を変えています。時間と手間を要し匠による一連の作業は、工作機械を利用した手合わせ作りのメーカーだからこそ出来る事だと思います。
また、近年の大手メーカー設計室ではAIを駆使して『響板f0』研究も進んでいる事でしょう。
昨年浜松で開催された国際ピアノ製造技師調律師協会の国際会議でヤマハさんの講演中、『響板特性が全くない音』を高性能スピーカーで聴かせてくださいました。コンピューターの進化と研究者の方々の執念のなせる業なのでしょうね。
実在のピアノには一部のKeyに響板特性が多かれ少なかれ作用するわけですから、本来はありえない『ヴァーチャル音』との説明がありました。
正直、私には楽曲ではそれほどの違いを確認、判断できませんでした。ただ、「素直に整った音だなぁ~。」とは思いました。
現実にはピアノは形あるものですから、『響板f0』は必ず存在し、影響して来るでしょう。
ピアノ設計をどのような理念や価値観で材質や形状を選択し、『響板f0』をどこまでどの様にコントロールしていくのかは製作者の醍醐味であり、メーカーの個性や魅力にもつながっていくのかもしれません。
近年、コンピューターの進化は将棋や囲碁の世界では名人を超えだしたようです。
ピアノにおいてもすでにヴァーチャル設計段階では人知を超えているのかもしれません。
シミュレーション試行期間の短縮や常識外発想の試験も比較的簡単に出来るようになったと思います。
ただ、ピアノは部品の多くが唯一無二の自然素材で作られます。
それ故、いままで超一流と言われてきたピアノ作りは匠の現物合わせの技が『頼みの綱』でした。
NC工作機械などの出現も見られますが、部材それぞれの個体差を肌で感じる匠の技は今のところ持ち合わせていません。
接着剤も含めて新素材を発明もしくは発見してピアノの部材を根本から見直すのか?
究極の匠の技を機械が身に付けるのか?
これらの課題がクリア―されたならば次世代のピアノが出現するのかもしれませんね。