1880年製のベヒシュタイン ウィッペン部の考察

近年のキャプスタン・ウィッペン

1880年製のベヒシュタインコンサートモデルのアブストラクト・ウィッペン

同じヘルツ式ダブルスプリングですが異なる部分も見受けられます。
違いを考察したいと思います。

1・ウィッペン ヒール部分

ウィッペン部はキャプスタンに乗っかっているだけの状態になり、ストロークタッチは擦りながら押し上げていきます。
この時の滑り抵抗はKeyコントロールを行う演奏者には非常に重要で調律師はキャプスタンの金属部分を磨いたり潤滑材の塗布したりして感覚調整をします。
解放タッチにおいてウィッペンはハンマーのリバウンドと自重で落ちて来るわけです。
そのため、ウイッペンの単体重量を増やす必要があったのではないかと思われます。
低重心になり強度が増し安定したことで付加価値としてKeyの運動エネルギーを力強く伝えることが出来たのではないでしょうか。
これによって、よりパワフルな演奏をバランスよく吸収する鍵盤システム開発も必要になりました。
鍵盤システムに関しては別の機会に説明したいと思います。

鍵盤とウイッペンが連携されているアブストラクトタイプ
長所としては一度調整したら温度湿度変化によるハンマーストロークの変化が少ないこと。
鍵盤との一体感があり鍵盤の動きがそのまま伝わります。
Keyはウイッペンとの一体化によってフリクションロス(滑り抵抗)が少なく解放タッチにはKey重量が加味されるため、Key戻り(解放タッチ)の反応が良いと思われ、ハンマーの動きがよりダイレクトに演奏者に伝わります。

しかし、なぜ近年アブストラクトは採用されなくなったのでしょうか。
一つは調律師の調整作業時間の大きな違いが考えられます。

ハンマーストローク調整を行う場合、アブストラクト用の特用のドライバーを駆使して2か所のネジを緩めたり締めたりする作業は、現代のキャプスタン回しで調整する方法と比較したら3~5倍の作業時間がかかります。

また、キャプスタンタイプはウィッペンと連結されていないので待ちあげるだけすみますが、アブストラクトのアクション取り外しには1列(88個)のネジを緩めてフックを引いて一つ一つ分離しなければなりません。
この作業時間もプラスされます。

これらが大きな理由と考えてきました。
しかし、作業をしてきて感じたことは、ウィッペンとアブストラクト連結部分の強度不足ではないかと考えるようになりました。
この部分の補強さえ出来れば近年のキャプスタンタイプより勝っている部分も多いのではないかと感じるようになりました。

2・ジャック形状

前後調整のスクリューボタン、受けのスプーンが一切存在しないシンプルなジャックです。
これは20世紀初頭のニューヨークスタインウェイも同様です。
シンプルに考えればジャックはハンマーにエネルギーを伝える要です。
高速で微妙な動きを強いられるジャックにスクリューやボタンをつけることはナンセンスです。

ジャック前後調整ネジとボタンはいつごろから装備されたのでしょうか。
調整ボタンを付けることによるコストアップや慣性モーメント増加のマイナス部分を考慮しても取り付ける必要があったからに違いありません。

フリクションロスが少ない方がいいのでしょうか?

微妙に異なる部分が見受けられます。

総括すると繊細な反応を要求する演奏はA、よりパワーが優先される場合はBとなります。
スタインウェイやベヒシュタインそして、ブリュートナーの創業が1853年で同年日本にペリーの黒船来航した年でもあります。
アクションのパワー伝達能力と鍵盤システムの飛躍的変化プラス総鉄骨交差弦を装備したパワフルなニューヨークスタインウェイの博覧会出典はヨーロッパのピアノメーカーにとっても黒船だったに違いありません。

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